開催日:平成19年10月28日(日)

 

 

名称 「食育」シンポジウム
開催場所 神戸女子短期大学ポートアイランドキャンパスD501大講義室
実施責任者 森下 敏子

 

−報 告−


 平成19年10月28日に実施された第3回食育シンポジウムは近郊の方や本学の学生・卒業生・教職員など合わせて約80名の参加のもと、なごやかな雰囲気で行われました。一般の方のなかには保育所の栄養士や病院の管理栄養士の方も多く、食育の実践に向けて関心の高さが感じられました(アンケート結果は後掲します)。
当日の食育シンポジウムの進行にそって報告をさせていただきます。

校門前の立て看板 受付風景 託児ルーム風景

 

13:20〜14:20 基調講演
演題:「植物も元気に育つ」
講師:森本直明氏、 神戸女子大学 文学部教育学科教授・農学博士
植物の光合成や蒸散作用を分かりやすく解説し、植物が大量の水を蒸散することで、熱中症をふせいでいることなど、植物の成長と人間の生活を関連付けて講演された。
「植物も元気に育つ」は植物も子どもも元気に育つという意味であり、植物に水や肥料をやりすぎると植物が枯れてしまうことと、子どもに手をかけすぎると伸び悩んでしまうことが多いことに関連があることを述べられた。イチゴ、ダイズ、落花生などの栽培方法も教えていただき、帰りには「イチゴ」の苗を全員に配布してくださった。


講演中の神戸女子大学 森本直明氏

14:30〜15:30
実践報告T:「五感を育てる栽培活動」
 報告:西躰通子氏、ポートピア保育園園長
野外活動15年の実績を生かし、体験を通じて自然を大切にする保育を実践していることを報告された。各年齢に応じて作物を植え、親子で触れて成長を楽しむ場を作っている。3歳児は人参を、4歳児はクリスマスの飾り用にコットンを、5歳児はトマトやこだまスイカ、もち米などを栽培し、脱穀や精白をしてお餅つきを行う。


の講演中のポートピア保育園 西躰通子氏

実践報告U:「初等教育学科のわくわくFarm」
 報告:庄司圭子氏、神戸女子短期大学初等教育学科准教授
初等教育学科専攻科保育専攻課程における「食育」の授業の一環として植物を育て、
命を育てることの大切さを学ぶ。栽培した野菜を食べることで命をいただいているという気持ちにつなげていければという願いで行っている。サツマイモ、落花生、ジャガイモ、オクラ、ブロッコリーなどを栽培している。


講演中の神戸女子短期大学 庄司圭子氏

実践報告V:「豆を使った食育提案」

報告: 神戸女子短期大学教授 西川貴子氏
  神戸女子短期大学講師 松浦紀美恵氏

 大豆の歴史や栄養価、生理機能について解説を行い、大豆を日常の生活に手軽にとりいれる方法を実際の調理に基づき紹介した。さらに試食をし、市販品との比較を行った。
なお、会の進行にあたっては教職員と学生ボランテイア有志による協力を得て行うことができました。また、初等教育学科による託児も行われ、参加者の好評を得ました。

 

講演中の神戸女子短期大学 西川貴子氏 神戸女子短期大学 松浦紀美恵氏の料理説明
大豆を使った料理の試食 試食料理を作った学生たち

 

 

 

2007(平成19)年10月28日

<植物も元気に育つ>

神戸女子大学 文学部 教育学科
森本直明

 

1 太陽と土

 地球上のあらゆる生物は、植物の光合成(太陽の光エネルギーを生物が利用できる化学エネルギーに変換する)に依存して生きている。植物が育つためには太陽光と土が大切である。植物は太陽光をエネルギー源として葉から吸収し、炭素以外の養分や水を根から吸収するからである。良い土とは、養分・水分・空気を保障する土のことで団粒構造をもつ土のことである。団粒構造の土は腐植(動物・植物・微生物の死骸の分解中間物で、いずれは完全に分解してしまうが、数年間は安定に保存される有機質)が「のり」のはたらきをして、粘土を巻き込んで、砂と砂をくっつける作用をする。団粒構造の土では隙間が大量に作られ、腐植と粘土の表面積がきわだって大きくなり、イオン交換樹脂やイオンの吸着剤のような働きをする。したがって、水との親和力が高く、保水性が大きい。さらに、隙間が多いことから透水性も大きい。保水性と透水性のように、一見相反する性質と、イオンを吸着する性質を備えた土、根に酸素を補給する空気をもった土が、団粒構造の土である。腐葉土、堆肥、厩肥を施すと、作物がよく育つのは、そのためである。腐植などの有機物は、やがては土壌微生物等によって分解され無機イオンになって養分として植物に吸収される。したがって、有機栽培の野菜が美味しいといっても、植物が動物のように有機物を食べるわけではなく、吸収するのは無機イオンとしてである。

 

2 植 物

 日光、温度、肥料、水、手入れなどによって、どのようにでも育つのが植物の特徴であり、どんなに手をかけても、お天気しだいで、よく育ったり、病気に冒されたりする。「植物も元気に育つ」と云ったのは、両方の意味である。植物を育てるのに欠かせないのが「土」、「水やり」、「肥料」である。広い畑ではなく、プランターや鉢植えを念頭において考える。

(1)

畑や庭の土には病害虫が多いから、プランターや植木鉢の土は、「花と野菜の土」を使うほうがよく、1回使った土は使わないほうが無難である。畑の場合は、土を良くするために腐葉土、堆肥、厩肥などの腐植を入れるとともに、連作障害を避けるために同じ場所に同じ植物を植えない。

(2)

水やり

一般に「水をやりすぎると、根腐れをおこす?」と考えられているようだが、そんなことはなく、普通の畑、校庭の端などの畑や花壇では、常に乾燥気味です。天候によるが、土の表面が乾いていたら、たっぷり水をやる。表面が濡れるだけでは足りない。3cm程掘ってみると、全く水がしみていない。鉢植え(植木鉢、プランター)の場合は、表面が乾いたら、底から水が出るまで水をやる。水が通った水筋が空気の通路になる。底に排水孔があれば、決して根腐れは起こらない。日中は避け、朝か、夕方、または朝夕、水をやる。

(3)

肥 料

畑には腐葉土、元肥として堆肥、厩肥、を入れるのが好ましいが、生ゴミ(台所)を入れると、分解過程で大量の熱が出るので、植物は枯れる。追肥として化学肥料の施肥も必要である。化学肥料には速効性のものと、かんこうせい緩効性のものがあり、元肥には緩効性の肥料がよい。

 

3 おすすめ植物

(1) トウモロコシ:他殖性(雌雄異花同株)のため、自分の花粉ではほとんど受粉しないので集団で植えることが大切(トウモロコシは1本植えても実(果穂)が実らない)。
(2) サツマイモ:ネコブセンチュウ、立枯れ病、クロアザ病などの病気を防ぐには、落花生の後にサツマイモをつくると、良く育つ。サツマイモは痩せ地でよく育つ。肥料をやりすぎると、「つるぼけ」(葉の茂り過ぎで、イモが太らない)を起こす。
(3)

ナス

@「親の意見とナスの花は、千に一つの無駄はない」(自殖性:自分の花の花粉で受精)
A「やけのやんぱち、日焼けのナスビ」:水をたっぷりやる。プランターなら、夏は朝夕。
B「ナスは肥料でとる」:肥料が必要。元肥、追肥(1、2週間に1度、500倍の液肥)。

(4)

いちご

@イチゴは乾燥に弱いので、たっぷり水をやる(常に土が湿っているくらいがよい)。
 水は葉にかけない(葉にかかると、病気のもと)。実が着き始めたら控えてよい。
A植えるときは、クラウン(crown:根と茎の境)に土がかからないように苗を浅く植える(株の根が安定する程度)。
Bポット植え:イチゴポット、植木鉢、プランター
 (ア) 土と元肥(もとごえ):「花と野菜の土」又は「畑の土と完熟堆肥とピートモス」を等量に混ぜる。
     元肥は、緩効性肥料を植木鉢なら大さじ1杯、プランターなら、子どもの手のひらで一握り混ぜ込む。
 (イ) 追 肥:露地栽培と同じように、根がしっかりする11月下旬頃と、花の蕾が着く2月頃、緩効性肥料を大さじ1杯株元にまく。
 (ウ) 育て方:鉢で育てると乾燥し易いので、乾いたら水をやる。

(5)

おじぎそう(おすすめの花:簡単に育ち、楽しいお花)

水に強いので、深めの受け皿に水を張り、鉢ごと水につける(乾燥には最も弱い)。

(6)

大 豆(おすすめ穀物)

大豆はマメ科植物。マメ科植物は根粒菌の空中窒素の固定のおかげで、肥料分の少ない土地でもつくることができる。

(7) キーウィ(kiwi)(おすすめ果物)
@植えて3年で実がなり、病害虫に強く、土地の条件が悪くてもよく育つ。
Aは雌雄両性花だから、一本植えただけでは実がならない。最近は、雌株に雄株を接木したものがある。
B果実の着き方がブドウと似ているため、「棚作り」がよい。
会場風景 展示風景

 

食育シンポジウムについてのアンケート結果

シンポジウムについての意見・感想
(1) 内容が充実して食育のバランスと範囲が広がった(71才、女性)
(2) 違った方向からの話で内容はよかった。実践報告の時間が短かった(50代、女性、保育士)
(3) 植物も食育には欠かせない大切なものだということが学べた。施設の中で何かできることに取り組んでいきたい(20代、女性、児童養護施設の調理員)
(4) 普段「食育」にかかわっていないため、新鮮な気分で聞くことができた。「食育」の大切さや楽しさが伝わり、今後何かの形で関わっていけたらと思う(20代、女性、病院管理栄養士)。
(5) 栽培と食育の共通点、育てることの大切さを知ることができた。本学の取り組みや実践例を聞けて参考になった(20代、女性、栄養士)。
(6) 講演や実践報告を聞くだけでなく、学生さんの作品に触れたり、試食を味わったりして、体験型の楽しいシンポジウムだった(40代、女性)
(7) 都会でも自然教育を早期的に実現できればと思う(50代、女性、保育士)
(8) 様々な角度から食育の話を聞くことができてとてもよかった。図や説明も分かりやすかった(20代、女性、保育園の栄養士)。
(9) 実践報告の1つでも保育園で実践したい。とくに野菜栽培は手間をかけて作りたい(30代、女性、保育士)。
(10) 明日からも活用できる情報を得ることがで、充実した時間だった(20代、女性、管理栄養士)。
(11) 「食育」とのことで食べ物の話だと思っていたが、栽培活動の話で勉強になった。自分もベランダ栽培をして困った点も同じだと思った。「植物も元気に育つ」、自分も社会人入学はできないかと思う(60代、女性)。
(12) 「食育」との話だったが、「食と農、自然、命」を併せて教育するといいのではないか。植物の命が人間の命を支えているということを教えてほしい(50代、男性、会社員)。
(13) 今年も参加できてよかった。実際、生活にどのように取り込めばよいのか迷ったが、少し難しく考えすぎていたように思う。おいしいものを作ったり、公園で遊ばせることも「食育」につながることを知り、これからの毎日が楽しみになった(30代、女性、主婦)。
(14) 保育園の実践報告など参考になった。毎回楽しみにしている(50代、女性、保育所調理士)。
(15) 五感を育てる活動は素晴らしいと思う。保育所から小学校・中学校へと進めてほしい(60代、女性、主婦)。
(16) 「自然と親しむ食育」での話で自然の恵みの大切さがよくわかった。ゆたかな心をはぐくむためには栽培する喜びが大きくかかわっていること、自分たちが植えた作物には感謝の心が育つことを伝えて生きたい(50代、女性、調理士)。
(17) 「食育」といっても、それぞれの専門家が様々な切り口で話すことにより色々な伝え方があることがわかった。生活や保育の中で実践できそうだ(30代、女性、保育士)。
(18) 子どもを育てる中で植物のことや、食事など気になることが増えてきた。シンポジウムの内容もバランスがとれていて、最後まで楽しめた。写真があることで理解しやすく、学生さんが一生懸命学んでいる様子がよくわかった(30代、女性、主婦)。
(19) ガーデニングを趣味にしているが、花の育て方も参考になり、作物にも興味がわいた(40代、女性)。