今後、単身シニアあるいは高齢夫婦世帯の増加が見込まれる中、これらの人々の食生活において、栄養バランスの偏り、低栄養、孤食化など様々な課題が生じている。また、シニア層にとって外食は、日常生活での楽しみであるとともに社会との接点ともなっている。
また、外食産業においては、地域のシニア層を対象とした栄養バランスの良いメニューの提供、サービスの向上が喫緊の課題となっている。
このため、外食利用が日常生活に定着しつつあることに着目し、地域シニア層を対象とした食育教室を東京都、神奈川県の外食店「味の民芸」店舗内で実施し、シニア世代における栄養摂取の課題と家庭での食事のあり方、バランスの取れたメニューの食事体験、上手な外食の利用法について、啓発を行うとともに、外食産業従事者の食と健康に関する意識の向上を図った。
味の民芸店舗において、地域シニア層を対象に実施店舗で参加者を公募し、を開店前の時間を利用して開催した。
食育教室は、二部構成とし、第一部で講師が「望ましい食生活」に関する講義(ワークショップ)を行い、第二部で、食育教室の趣旨を盛り込み開発された味の民芸のメニュー「民芸松花堂ご膳」によるワークショップの内容を実践するための食事体験を行った。
店頭での告知風景 |
配布資料 『健康長寿のための食生活のすすめ』 |
(1)講義「健康長寿を目指すための食事のとり方」
講師:食品産業センター参与 門間 裕
味の民芸 管理栄養士 野上 井川
① シニア世代の栄養摂取の課題
② 望ましい食生活のあり方
③ 家庭での食生活のあり方
(2)食事体験① バランスの取れた食事メニューの試食
② 多様性のある食事摂取の手法
③ 外食の上手な利用法
平成26年10月~11月に10回の食育教室を開催
東京都及び神奈川県内の「味の民芸」店舗内
開催8店舗 合計 135名
日本人の平均寿命は、男80.2歳、女86.6歳であるが、日常生活に制限がないと自覚している期間「健康寿命」は男70.4歳、女73.6歳であり、男性で9年、女性で13年の間、日常生活に不都合のあるあるいは介護されるなどの状態である。健康長寿に暮らすためにはどうすればよいか。
講座風景1(健康寿命) |
講座風景2(望ましい食生活のあり方) |
3食きちんと食べていても低栄養になることがある。70歳以上の4人に1人は、たんぱく質不足による低栄養という調査結果もある。一般にはBMI20以下になると低栄養のリスクがあるといわれている。シニア層では20%程度が該当している。
なお、低栄養とは、身体の必要量に対して食べ物から摂るエネルギーやたん白質などの栄養素が不足している状態をいう。
低栄養が続くと、血管の壁がもろくなって心臓病や脳卒中など血管障害を発症しやすくなる。認知症の発症にも影響を及ぼす。低栄養にならないように予防すれば、老化を遅らせることができる。
人の身体の60~70%は水分、15~20%はたんぱく質で、筋肉や内臓、皮膚などヒトの身体を構成する栄養素である。たんぱく質は、肉、魚、卵、大豆、乳製品に多い。次に1日に必要なたんぱく質食品を挙げる。
いろいろな食品を食べることを検証するために、「10食品群チェックシート」の活用を推奨する。ここで10食品群とは、肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、いも類、果物、海藻類、油脂類を云う。ごはん、パン、麺などの主食は、毎食食べているということで、10食品群には入れない。
1日の食事で、10食品群を少しでも食べたら○印をつける。このポイントは、「量については言わない」ことである。すなわち、少しでも食べたら「○」とする。
10食品群チェックシートを使って皆さん(参加者)が前日の食事をチェックしてください。昨日の朝食・昼食・夕食に何を食べたか、次に、その料理にどんな食材が入っていたか。10食品群チェックシートに○印をつけて下さい。
続いて、1週間のチェックシート利用を説明する。この場合、朝食・昼食・夕食別でなく1日の食事を1行として○印をつける。3.4日つけていくと自分の食生活が見える。少しずつでもいろいろ食べようとしたり、嫌いなものも食べようと意識することにより食事のバラエティが広がる。
また、食品群別にみてあまり○印がつかないものは不足しているものであ り、積極的に食べるように心がける。このような習慣づけにより、栄養状態が改善され老化の進行が抑えられる。
なお、毎日10食品群を食べなければいけないというものではない。栄養摂取は毎日の積み重ねであり、1週間くらいの時間で全体のバランスをとるとよい。
味の民芸フードサービス株式会社が開発したメニューを提供し、参加者 が10食品群チェックシートに、どの料理にどんな食材があってどの食品群に該当しているか実際に検証してみる。
検証後、外食の上手な利用法を説明する。外食するメリット、食事はひとりではなく、家族や友人と食べた方がおいしく感じる。
参加者による和やかな『共食』風景 |
だれかと一緒に食事をすることを共に食べる「共食」という。一人暮らしの場合は、食事会への参加、近所の方との外食など、自ら行動して共食の機会を心がける。みんなと一緒に食べることで、食事が楽しい・おいしく感じる・よく噛んで味わう・栄養バランスが良好であるという傾向が確かめられている。
つまり、「共食」は、精神面の安心感に加え、生活や食事の質を向上させる等いろいろな効果をもたらす。
厚生労働省の意識調査でも「食生活で力を入れたいこと」として、「家族や友人と食卓を囲む機会の増加」という項目が4番目に多い回答となっている。
生活の中に「共食」を取り入れて、ますます健康長寿にお過ごし頂きたい。