別府大学食物栄養科学部食物栄養学科
西澤 千惠子
大分県は海と山に囲まれ、食材に富んでいる。かつては多数の小藩に分断され、それぞれ独特の食文化を形成していた。しかし「食の均一化」は、大分県でも起きている。また近年、社会の変化から「食」の外部化が進行し、全国的に家庭で調理をする機会も減少してきている。
我々の県下の小学生とその保護者、各々約1400名を対象とした調査によると、「郷土料理」と言われているもので認知度が高かったものは、市販されているものや学校給食などで日常的に目につきやすい料理で、少数であった。低かったものは、かつては広範囲に作られていたが現在では家庭で手作りしなければ入手できないもので、こちらが多数を占めた。
昨年、地域の園児と児童、保護者にもっと郷土料理を知ってもらい、良さを味わってもらいたいと考え、別府大学創立100周年行事の一環として、4回にわたって親子「四季の郷土料理教室」を開催した。いずれも大勢の人々が興味を示して参加してくれた。この時のアンケート調査には、保護者は「地元に住んでいながら、郷土料理を知らない。教えて欲しい。」「今年だけでなく、ずっと開催して欲しい。」、児童からは「料理はおもしろかった。いろいろなものに挑戦したい。」旨の記述が数多く寄せられた。
そこで本年も引き続き、地域の園児・児童と保護者を対象に、郷土料理を取り入れた調理と、「食」についての話も含んだ公開講座「親子郷土料理教室」を開催した。
本年度は2回開催することにした。時期については ①食材の関係上、暑い時期は困難である。 ②園児、児童と保護者の皆さんが集まりやすい時期、応援の本学学生が動きやすい時期
テーマについては、園児や児童、地域の人々が関心をもっているもの 等を考慮した。
第1回目
日時:平成21年12月5日(土) 10:00~13:00
テーマ:「魚っておいしいよ!」
講師:安房田司郎先生(食物栄養学科 教授) 、別府大学ヘルシンジャーの皆さん
第2回目
日時:平成22年2月6日(土)10:00~13:00
テーマ:「まごはやさしい料理」
講師:平川史子先生(食物栄養学科 准教授)
(1)事前準備
①別府市と大分市、日出町を中心に小学校にチラシを配る、市の広報に載せる、児童館や公民館などの施設にチラシをおいてもらう、大学のホームページに載せてもらう、マスコミに連絡をする、などして、料理教室への参加を呼びかけた。
②講師を依頼、打ち合わせ、レシピの作成
③当日手伝ってくれる学生ボランティアの募集
第1回目 食物栄養学科3年生を中心に11人が、第2回目は2年生と3年生13人が応募してくれた。
④食材の調達
食材の手配を行った。
⑤マスコミ(NHK大分、テレビ大分、大分合同新聞社、ケーブルテレビ)に取材の要請を行った。
⑥前日 材料の仕分け、下処理
(2)当日
魚離れ、時に子供の魚離れが叫ばれてから久しい。保護者の年代も魚を切り身で買ってくることはあっても、自分でさばくことはなかなかしていないようである。大分県は魚の産地で新鮮なものが入手できるので、魚についてより詳しく知って身近なものにしてもらう目的で献立をたてた。
園児・児童 23人、保護者 25人、教職員 7人、学生(ヘルシンジャーを含む)15人が参加した。
「かちえび」は赤えびを天日で干した後、棒でたたいて殻を取り除いたもので、宇佐市を中心とした県北の海岸で生産されている。今回はこれと大分県の特産物のかぼす果汁、県内産の乾ししいたけを使ってちらし寿司にした。魚は県内産のものを使用予定であったが、当日は満月の休漁期に当たっており、長崎産の鯖を使用せざるを得なかった。魚をさばいて焼き魚用の切り身にした後、あらを昆布とともに煮出して出汁を取り、すまし汁にした。なお皮をはいでない皮はぎ(はげ)も入手できたので、皮のはぎ方のデモンストレーションを行った。
保護者でも今回初めて魚をさばいた人が多く、子供に至ってはほとんどが初めての経験で、真剣に見ていた。
アンケートには、「魚をさばくのは初めてだったので、よい経験をした。」「今まで魚嫌いだった子供が喜んで食べた。」「皮はぎのさばきかたがわかってよかった。家でもやってみたい。」等々が書かれ、目的が達成されたことを示していた。
食育「ヘルシンジャー」は「野菜嫌いをなくそう」というテーマで行われた。子供たちは大学生扮するヘルシンジャーに目を見張った。
園児・児童 29人、保護者 31人、教職員 8人、学生 13人が参加した。
「最近の子供は好き嫌いが激しい」、「給食を残す」などといわれて久しい。今回は日常的にあまり食卓に上ってこない食材に親しんでもらおうと、「まごはやさしい料理」をテーマとした。
ま・・・・・まめ
ご・・・・・ごま
は(わ)・・わかめ(海藻)
や・・・・・やさい
さ・・・・・さかな
し・・・・・しいたけ(きのこ類)
い・・・・・いも を取り入れた料理である。
エネルギー1285kcal、食物繊維11.3g、塩分5.0gと、食物繊維たっぷりの献立であった。
普段、肉料理中心の献立に馴染んでいる参加者は、「どんな献立なのか?」「食べられる味なのだろうか?」「満腹感は得られるのであろうか?」等々、半信半疑の状態でこの教室に臨まれたようである。しかし試食をしてみると避けていたししゃも、さつまいも、ピーマンやきのこなどなんの抵抗もなく食べられ、しかも満腹になり、大満足であった。特に子供たちはすでに作ってあったクッキー生地を好きな形にして、さらにレーズンとチョコチップでトッピングをし、得意げであった。保護者にとってもクッキーはほどよい大きさで、おからを使ったとは思えない味で、何人もの人が「家でも作りたい」と感想を述べていた。
アンケートには、「年に3回はやってください」「また参加したい」など、今回の企画がためになった旨の記述が多数あった。
なお、2回の本行事に関して、地元のケーブルテレビ「トンボテレビ」と大分合同新聞社の取材があり、出席者は教室が終わった後、再度興奮の渦に包まれた。
近年、家庭で調理する機会が減少し、園児や児童にいたってはほとんど調理経験がない状態である。今回は地元の食材を使い、調理する楽しさを経験してもらう目的で、公開講座「親子郷土料理教室」を開催した。
ちらしを作成し大学のHPに載せる、別府市の全員と、大分市、日出町の一部の児童に配布し、別府市と日出町の広報に載せる、商店街にポスターを貼ってもらうなど、事前のPRが功を奏し、大勢の地域の方々が興味を示し、毎回、何組かはお断りするほどであった。
当日はデモンストレーションの後、調理実習、試食、第1回目は「ヘルシンジャー」による食育という順序で行った。我々の心配をよそに、園児・児童は必死に調理に取り組んでいた。幸い怪我や事故は全くなかった。
会の最後に書いていただいたアンケートには、2回ともに参加した人からは「子供が調理に興味を持ち、手伝ってくれるようになった」「親子の会話が増えた」「これを契機に家でも一緒に調理をしたい」などの記述があり、目的が達成されたのと同時に、親子関係にも一役かっていることが示されていた。
このような形で、本来家庭内で行われていたことを大学などが介入して教えなければならない時代になっているのかもしれないことを実感し、来年度以後も開催していくことを計画している。
この交流会を助成してくださいました社団法人日本フードスペシャリスト協会に深謝したします。