-フードスペシャリスト協会一般向け啓発事業実施報告書-

開 催 日
:平成21年6月27日
開催場所
:新潟大学教育学部大講義室
講演
1)「子供たちへの“調理のススメ”こそ食育の原点」
的場 輝佳 氏(関西福祉科学大学健康福祉学部)
2)「学校教育における食育
杉山 久仁子 氏(横浜国立大学教育人間科学部)
3)「食育における食品安全性」
山本 和貴 氏(農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所)
4)「咀嚼機能から食育を考える -給食における小学生の咀嚼の実態から見えてきたもの-」
安富 和子 氏(松本歯科大学大学院歯学独立研究科、長野県 喬木第二小学校 養護教諭)

 

共催:新潟大学教育学部、新潟市、日本フードスペシャリスト協会、JSTイノベーションサテライト新潟

 

新潟大学では、教育学部と農学部にフードスペシャリスト養成コースを設け、食に関する教育を行っています。また本学地域連携フードサイエンスセンター及び新潟県、新潟市等と連携し、食に関する情報発信や啓蒙活動を進めています。これらの背景のもと、「これからの食育のために-食の専門家の視点から学ぶ-」をテーマに、市民向けシンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、教育学部のフードスペシャリスト養成コースの教員を中心に企画したもので、わかりやすく、かつ奥の深い実践的な内容を提供するため、全国で活躍中の専門家の方々にそれぞれの視点から講演していただき、食育に関する様々な取り組みを紹介していただくとともに食育推進のための提言をしていただきました。教育関係者、食品関連企業、行政関係者および学生を含む約300人の参加があり、活発な質疑も行われました。

【講演要旨】

1)
子供たちへの“調理のススメ”こそ食育の原点
的場 輝佳 氏(関西福祉科学大学健康福祉学部)
今日、わが国には世界に類を見ないほど食材が溢れ、恵まれた食環境にあるにもかかわらず、なぜ“食育”が求められているか。この社会的背景を考えてみたい。食育の範囲は、健康増進や食文化、地産地消や食の安全性、家族関係など、極めて広い。なかでも、子供たちが食材に触れ、調理を体験して、食の大切さを料理を通して本能的に体得することこそ、食育の原点といえる。京都の老舗料理人グループ(日本料理アカデミー)が京都市教育委員会と連携して、小学校で展開しているユニークな活動を、食育モデルとして紹介したい。
2)
学校教育における食育
杉山 久仁子 氏(横浜国立大学教育人間科学部)
食育基本法(2004年成立)では、家庭、学校、保育所、地域などを中心に国民的運動として、食育の推進に取り組んでいく事を課題としています。昨年度改訂された小・中・高等学校の学習指導要領では、食育の推進に関する記述が新たに加えられました。実は、学校では、1997年より生涯にわたって心身ともに健康な生活の基礎を培う健康教育の一環として「食」に関する指導を、学校教育を中心とした食教育として進めてきました。学校で取り組むべき「食育」とは何か、教科や特別活動と「食育」との関わり、取り組みの例などについて触れ、これからの食育推進の方向性や課題について考えてみたいと思います。
3)
食育における食品安全性
山本 和貴 氏(農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所)

石塚左玄による造語「食育」は、100年程前に食品栄養学の観点から用いられたようである。しかし、BSE問題以降の食品安全性に関する関心の高まりから、近年では消費者の不安を取り除くための食品安全教育活動としても機能し始めた。しかしながら、食品安全性に関する日本の教育体制は十分でなく、正しい用語、考え方が普及しているとは言い難い。

ここでは、食品安全性を理解するための用語、考え方について解説・概説するので、更に勉強して頂く際の基礎としてお役に立てて頂きたいと考えている。

4)
咀嚼機能から食育を考える -給食における小学生の咀嚼の実態から見えてきたもの-
安富 和子 氏(松本歯科大学大学院歯学独立研究科、長野県 喬木第二小学校 養護教諭)
噛めない子供が増えている現状から、小学生の給食一食当たりの咀嚼回数の実態把握を通して、子供たちがよく噛むことの大切さを体感し、低年齢のうちに咀嚼の習慣を身につけるための、食育の指導方法を探る。咀嚼回数を測定する装置「かみかみセンサー」の開発から見えてきたことを、咀嚼と肥満との関係を探る一事例の報告。

アンケート結果について

今回の講演会の企画および内容は大変好評であった。アンケートに寄せられた「感想・意見」の一部を以下に紹介する。また「今後、食品に関連して取り上げてほしいテーマ」は、今回のシンポジウムの続きに当たるテーマの他、さまざまなものが挙げられた。以下にその一部を紹介する。

<感想・意見>

・食育に対して様々な方面からアプローチがあると感じました。とてもわかりやすくあっという間の楽しい時間でした。食べることと家族などの環境は大きくかかわっていると感じました。

・どの先生の講演も面白かった。 

・かみかみセンサーは現場で使ってみたいと思いました。食品の安全性については言葉を間違って使っていたり、混同していたので気をつけようと思いました。討論の時言っていましたが、調理のすすめ、本物のプロの料理人、子供の親が一緒の親子料理教室のようなものもいいのではないかと思いました。食育=日本人力 賛成です。

・具体的な事例のもとでご講演でしたので、非常にわかりやすく聴きやすかったです。幅広く食育を考えていくのに役立ちました。視点を広くして関わりたいと思いました。ありがとうございました。

・的場先生、杉山先生の講演をもっと時間をかけて聴くことができればよかったと思う。5年家庭科みそ汁作りで「だし」に気付かせるという部分をTTで行ったことがあるのでもう少し深く伺いたいと思った。

・その道のスペシャリストのお話をお聞き出来て大変勉強になりました。食育を進めるために多くの情報が必要だと思いました。 ・4人の先生方の専門的なとても貴重なお話、大変勉強になりました。「食育」は学校だけ、家庭だけですすめるのではなく社会全体で総合的に取り組まなければいけないと思いました。 ・大変勉強になりました。自分も親として家庭での「食育」について考えていきたいと思います。

・食品を調理する楽しさ、家庭科の授業で教えた米の農作、科学的・医学的な食中毒、咀嚼力の大切さが一連してわかりやすかったです。養護の先生の咀嚼研究が勉強になりました。

・食品企業から「食品の安全」を訴えるだけでなく、消費者への食品の安全を教えることもこれからの日本の食品に関して重要であると感じました

・1度の講演会で4名の方から様々な側面で食に関するお話が聴けて良かったです。学校・地域・家庭の協力が大切だと感じました。

・調理のススメ、学校教育における・・・は改めて学校現場での食育への意欲をかきたてられました。食品の安全性は給食現場で一番大切なことなので、久々に振り返りありがたかったです。楽しくわかりやすい構成でした。安富先生の話はとても勉強になったとともに今まで子供に指導した事を理論的に確認できたようでありがたかったです。
食育でどのようなことが行われているかわかってよかったと思う。子供達は食べ物に興味があるので小さいうちから正しい食べ物のとり方、作り方、生かし方を知っておくことは大切なことだと思う。

・授業で習ったことが関連してくることが多くとても面白かった。的場先生の食育プログラムの事が珍しく、楽しそうで面白いと思った。安富先生が咀嚼から考えて、新しい装置の開発をしている話も面白かった。

・咀嚼の大切さを知ることが出来てよかった。養護教諭も食育に携わる事ができると思った。肥満予防や学校保健にもつながることを知った。

・多方面からの情報があって食を総合的に考えられてよかった。食育を科学的、客観的に指導したりする方法、評価などを知りたい。

・日頃、体験する事の出来ない事が経験出来てよかった。「食育」って何だろうという疑問があって参加したが本当に幅広いものだと実感しました。広すぎて何でも対象になることも理解しました。

<今後の食品に関する希望テーマ>

・父・母親の食事による子供への影響について(家族みんなで食事する事の意味(家族内での会話の場では?)

・農業生産を中心としたテーマ

・生産者の方のお話を伺いたい。また農政側の話も聞きたい。

・児童生徒へ食品の安全性を知らせるための簡単科学実験等、目で見て伝えられるものがあるだろうか。安全教育の方法

・学校における具体的な食育「小学校・中学校での系統的な食育の内容はどうあればよいか」

・人と食べ方・・・食感(Texture)と○○(食べ物との構造)との関連など。食べ物の物性、おいしさ。 

・食品加工 ・地産地消 ・食品の安全について、消費者の方がどう考えているか実際の意見なども聞ければ面白いと思います。

・食育について行政の立場の方からもお話を伺いたいと考えています。

・おやつに含まれている糖分や脂肪の量を子供たちが実際に簡単な実験等を通じて学べるような方法がありましたら教えていただけたらと思います。

・地域で研究されていることを一般の人に広く知ってもらうようなこと。

・食を作る、食すこととの脳の健康との関連など

・フードファディズムについ

・保存食の注目した「産地」等(今回の言葉で言うと「日本型」の食生活ではなく「多様な食材の入る今の日本」という「新日本型」の食生活を見出すことができないかを検討したい。(何でも輸入ではなく、必要なものに絞る可能性が出ると思うので。))

・「残飯問題」をぜひおねがいします。大型店舗に行くたびに大量すぎる食品を消費期限を過ぎたそれらの行方を思い胸が痛みます。大量生産・廃棄は日本の大きな問題だと思います。

・食べ物の一番効率の良い食べ方は?栄養の点でも、おいしさの点でも。

・アレルギーに関して。 
・食品添加物についてもっと詳しく知りたいです。

・食と脳科学 ・メタボリックシンドローム

・食品業界に対する意見・指導と食品業界側からの意見。

・また、食育のお話、今後の研究成果などをお聞きしたいと思いました。

・間違いだらけの調理科学。調理学を科学的に解明する。

・京都のだしのとり方を教えてもらいたい。

・世界の食糧事情を自給率について今後の展開を予想できるような内容

・生活習慣病の改善などに関連した事(十代女子のやせ、肥満傾向児など) など