‐食に関する一般向け啓発事業 実施報告‐
開 催 日:平成22年7月17日(土)
開催場所:松本大学
参 加 者:7名(大学生5名※、一般2名)※他学部他学科3名、健康栄養学科1年生2名
専任講師:沖嶋 直子(人間健康学部健康栄養学科)
アシスタント学生(沖嶋研究室)
本助成が決定した直後から、7月の調理実験教室実施に向けての準備作業をした。インターネットや郷土の食に関する本からレシピを抽出したが、どのレシピも米粉1kgに対し砂糖50g、塩小さじ2、熱湯420cc、蒸し時間20分を基準としてほぼ類似していた。まだレシピに改善の余地があると思われたため、既存レシピの蒸し時間、こねる時間、砂糖の分量など様々にアレンジして作り比べ、食味、食感について実際に試食し、機器による測定を行い、結果も比較検討した。また、餅類の弾力性を保つ働きのあるトレハロースを砂糖の代わりに使用したレシピも試行錯誤の上開発した。"やしょうま"は金太郎飴のように切り口を美しい柄にするが、通常使いがちな人工着色料を使わず、ビーツや紫キャベツ、抹茶、ココア、黒ゴマなど食品由来の色で着色できるよう、事前に試作を行い着色の確認を行った。
粒食である米と粉食である"やしょうま"の消化度の違いを市販のαアミラーゼ、ヨウ素デンプン反応を用いて比較検討した。
本助成応募の段階では他県産の米粉を使用する予定であったが、偶然にも地元松本平産で通常商品価値がなく捨てている「青米」から作られた米粉が入手できた。
これらの準備作業を経て、7月17日に「ベストレシピを探せ!」と題し7名の参加者に対し調理実験教室を実施した。参加者の募集には、本学HPへの掲載、チラシ兼申込書の中学校・高等学校への郵送、オープンキャンパスでのチラシ配布、地元情報誌への掲載(取材)など努力はしたが、時期的なものもあり、参加者は7名にとどまった。
準備段階においていくつか実施したレシピのうち6種類(表1)を各調理台に割り振り、柄は受講者とアシスタントとしてついた沖嶋研究室の卒論生とで相談して各斑オリジナルの柄を競い合ってもらった。具体的なレシピや調理方法は、以下の通りであった。
グループ1 | グループ2 | グループ3 | グループ4 | グループ5 | グループ6 | |
---|---|---|---|---|---|---|
米粉 | 500g | 500g | 500g | 500g | 500g | 500g |
砂糖 | 50g | 100g | 50g | |||
トレハロース | 50g | 100g | 100g | |||
塩 | 小さじ1 | 小さじ1 | 小さじ1 | 小さじ1 | 小さじ1 | 小さじ1 |
熱湯 | 約400cc | 約400cc | 約400cc | 約400cc | 約350cc※ | 約350cc※ |
※耳ぶたの固さ
図4 当日の実習風景
左は米粉に熱湯を加えてこねているところで、右は蒸しあがった生地に柄を出すために色をつけて成形しているところ。いずれも普通のエプロンをつけているのが参加者。左の写真奥のコックコートを着用しているのがアシスタントの沖嶋研究室学生。
7名の参加者のうち3名は"やしょうま"を知らない、4名は作った事がないとアンケートで回答していたが、基本的な調理スキルは持っていたため、各調理台についたアシスタントの学生とコミュニケーションを取りながら、スムーズに調理が進められた。
出来上がった"やしょうま"6種類を参加者および指導者、アシスタント全員で試食し、食感、食味の評価を行い、今回の調理教室におけるベストレシピを投票によって決定した。
今回の参加者は柔らかく、甘味のある"やしょうま"を好む傾向があったためか、グループ2の砂糖100g、加水量400mlのレシピに16名中9名が投票し、トップとなった。教室終了時にアンケートを実施し、この活動についてのフィードバックを行った。
アンケート結果から、「おいしく作る条件がわかった。」と回答した参加者が7名中6名と、ほぼ全ての参加者においしく作る方法について理解してもらえた。また、「楽しかった。」と回答した者が7名中6名と楽しんで調理に臨めたことが分かった。
「このような企画があればまた参加したいと思うか」について、3名は「また参加したい」、4名は「わからない」と回答し、今回の調理教室に参加したことで基本的な"やしょうま"の作り方をマスターできたため、次回は参加しなくてもよいと判断されたのかも知れない事が示された。
"やしょうま"について、今回の調理実習以外に知りたい事について自由記入にて回答を求めたところ、複雑な柄の作り方といったスキル向上や同じ長野県下でも地域による差があるのか、歴史的背景についても知りたい、という文化的な内容を希望する声もあった。
この活動を通し、これまで受け身で人の指示通り動く事に慣れていた学生たちが、自分の力で物事を考え、企画、運営する事が出来、今後フードスペシャリスト、栄養士、管理栄養士として働いて行く際の礎になったと感じた。
反省点が3点あった。1つ目は地元産、しかも従来は捨てていた青米由来の米粉を使用した事をアピールしきれなかったことである。米としては食べられない物でも粉にすると有効活用できる「エコ」な部分や地産地消をアピールしきれなかったことが残念であった。
2つ目は前述のように集客には努力をしたが、7月17日の参加者が7名と少なかった事である。その理由の一つとして、本来作る時期である春秋の彼岸や3月の涅槃会に先だって行えなかったことが考えられる。
3つ目は消化度についての実験を主にした7月19日実施予定だった実験教室は参加者申し込みが0名であった事である。大学で栄養学を教える者としては、ただ単に調理だけでなく、消化によいかどうかなど栄養学的な側面にも興味を持ってもらいたいと思い企画したが、一般人には全く興味のない分野であることが明確となった。これらの反省点は今後同様の教室を企画運営する時に役立てたい。
以上