5. 事業内容
(1)プログラム
12:30 開場
受付(図1)時、先着250名に「シカミートソース缶」(図2)を進呈した。この缶詰は、釧路全日空ホテル総料理長楡金久幸氏の監修のもと、北泉開発株式会社食品事業部により製造されたものである。缶とともに配付されたアンケートハガキは、続々と返信されている。好ましい評価が多いようで、今後の商品化が期待される。
図1 受付
図2 参加記念品「シカミートソース」
13:00~13:10 開会挨拶
釧路短期大学学長西塔正一、釧路市副市長小松正明が挨拶した。
13:10~13:55 基調講演(図3、4)
ずーっとシカを食べてきた-日本人とシカの「!」な話
近藤誠司氏(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター長、北海道大学大学院農学研究院教授)
日本人は牛馬といった家畜は食べなかったものの、シカやイノシシは田畑を防除する目的からも食べてきたという史実が紹介された。また、「エゾシカ肉衛生処理マニュアル(北海道)」を遵守した証である「エゾシカ肉推奨マーク(社団法人エゾシカ協会)」が貼付された安全な肉を食べて、北海道の生態系を守ろうという提案がなされた。アニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方も示された。
図3 講演
図4 会場
13:55~14:20 講演1
モミジもボタンも伝統ジビエ-丹波の猪鹿話最前線
横山真弓氏(兵庫県立大学准教授、兵庫県森林動物研究センター主任研究員)
兵庫県においても、シカやイノシシなど増えすぎた野生動物と人間生活の軋轢が大きな社会問題であることが報告された。伝統的な味覚であるイノシシ肉の魅力のほか、シカ肉の熟成に関する研究成果についても紹介された。
14:20~14:45 講演2
ノルウェーの森…でシカ食べて-研究者&ハンター女子の欧州リポート
上野真由美氏(道総研環境科学研究センター道東地区野生生物室研究職員)
シカ研究の一環としてノルウェーへ留学した経験を踏まえ、ノルウェーでは狩猟で得られた産物が消費者に届けられるまでの流れが確立していることが紹介された。ハンティングのおもしろさについても語られた。
14:45~15:15 実演(図5)
見せます!エゾシカ肉のさばき方-骨付きモモ編
楡金久幸氏(釧路全日空ホテル総料理長)
演者の手元をビデオカメラで撮影し、リアルタイムで200インチスクリーンに投影した。モモ肉は、ソト、ウチ、シンタマ、ランプなどの数部位から成り立つ。これらと骨との位置関係を示すため、およそ5キログラムの骨付き肉を用いた。演者からは、スジを丁寧に取ること、筋繊維を絶つようにスライスすることが重要であるなどの説明があった。
図5 解体実演
15:15~15:40 休憩
先着250名に「シカバーガー」(図6)が進呈された。レストランイオマンテに製造委託したもので、シカ粗挽き肉、シカ心臓、シカ肝臓から成るパテとリンゴのジャムがバンズに挟まれており、大変好評だった。
図6 参加記念品「シカバーガー」
15:40~16:30 パネルディスカッション(図7)
調べたら食べるんです-食いしん坊研究者たちのエゾシカ談義
パネリスト:近藤誠司、横山真弓、上野真由美、岡本匡代(釧路短期大学准教授)
コーディネーター:井田宏之(社団法人エゾシカ協会事務局長)
パネリストは、専門領域は異なるものの全員がシカ研究者である。調べては食べることを繰り返してきたパネリストの日常が紹介され、コーディネーターによって軽妙にまとめられた。好きなシカ料理では、ミートソース、ステーキ、シューパウロー(塩ゆで)、しゃぶしゃぶ、ハンバーグなどが挙げられた。この模様はFMくしろによって公開録音され「エゾシカ・ゼミナール」で放送された。FMくしろのサイトで聴取できる。
(http://www.fm946.com/podcast/podcast02/)
図7 パネルディスカッション
(2) 展示および販売コーナー(図8)
財団法人前田一歩園財団、北泉開発株式会社、もっともっと北海道を楽しむコンセプト型通販付きマガジン「スロウ」、釧路地区エゾシカステーション、北海道開発局釧路開発建設部、北海道釧路総合振興局、東京農業大学、釧路市、釧路短期大学などによる展示等がなされた。野生エゾシカを生体捕獲する際に用いられるエサ(ビートパルプの絞りかす)、シカの樹皮はぎによって立ち枯れた木の現物、シカの大型ぬいぐるみ、ゴム鉄砲でシカの模型を狙う射的コーナーなども設置され、シカについて楽しく学べる空間となった。
図8 展示コーナーとスタッフ
6. ポスターおよびチラシ(図9)
A2版ポスターは400部、A4版チラシは2,000部用意し、釧路市および釧路管内の各所に掲示ならびに設置された。
図9 チラシ(チラシ拡大)
7. メディアによる報道
事前告知ならびに事後報道においてメディアを積極的に活用した。新聞記事等は図10および11のとおり。このほかに、FMくしろ「エゾシカ・ゼミナール」では、参加記念品が製造される経緯などが数回にわたって紹介された(http://www.fm946.com/podcast/podcast02/)。前述したようにパネルディスカッションのようすも放送された。
図10 メディアによる報道(事前告知)(記事の拡大)
図11 メディアによる報道(事後)(記事の拡大)
8. 参加者アンケート
来場者を対象として実施されたアンケートの集計結果について、平成23年3月に行われた「第1回」との比較を交えながら報告する。
用紙は、入場時に資料とともに配付され、退場時に回収された。配付数269部に対して回収数は165部で、回収率は61.3%であった。
(1) 参加者属性
269名の参加が得られた。前年に引きつづき目標人数を上回る動員数であった。回答者の性別は、男性98名、女性64名、無回答3名であった(図12)。前回と同様に全体の4割が女性で占められたことは、好ましく受け止められた。なぜなら、シカ利活用を考えようとする事業では男性の参加者が大半を占めることが多いため、本事業では、多くの場面で食の担い手である女性の動員を図ろうと、女性のスピーカーを多く起用したり、女性を意識した告知媒体を採用するといった工夫をおこなったためである。こうした工夫が一定の効果をもたらすことが、あらためて確認された。回答者の年代は、10代2名、20代15名、30代32名、40代35名、50代33名、60代30名、70代15名、80代2名、無回答1名であった(図13)。幅広い年齢層の参加を得られたこともまた、前回と同様であった。
(n=165)
図12 参加者属性(性別)
(n=165)
図13 参加者属性(年代)
(2) エゾシカ肉の摂食頻度および摂食場所
「この1年でシカ肉を何回食べましたか」という設問には、「食べていない」33名、「1回」25名、「2~3回」39名、「4~5回」22名、「6回以上」46名という回答が得られた(図14)。この1年間で摂食経験がある者は8割で、全道平均の5割を上回っていた。とくに、「6回以上」という積極的摂食者は3割を占めていた。また、「1回以上食べた方、そのシカ肉はどこで入手または食べましたか(複数回答)」では、「直売店で購入した」6名、「スーパーで購入した」8名、「インターネットで購入した」1名、「飲食店で食べた」69名、「自ら捕獲した」20名、「譲り受けた」50名、「その他」14名という結果であった(図15)。2問とも、前年と同様の傾向であった。
(n=165)
図14 この1年でシカ肉を何回食べましたか
(n=168)
図15 そのシカ肉はどこで入手または食べましたか (この1年でシカ肉を食べた方対象、複数回答)
飲食店名を問う自由記述欄には、「レストランイオマンテ」11名を筆頭に、「サークルハウス赤いベレー・レストラン鶴」や「そば処頓化苑寿庵」など「シカの日参加飲食店」が散見された。釧路市とその近郊(釧路市阿寒町および釧路町)における「シカの日参加飲食店」は、39軒(平成23年2月現在。前年の1.7倍)であり、人口比では道内トップである。北海道による「シカの日運動推進事業」は平成24年3月に終了したが、シカ料理を楽しめる飲食店のますますの増加が期待される。消費者に提供される食品は、安全でなければならない。「エゾシカ衛生処理マニュアル(北海道)」が遵守された証明である「エゾシカ肉推奨制度(社団法人エゾシカ協会)」の認知には、ますます注力される必要があるだろう。
(3) 本事業を知った機会
「このシンポジウムを何によって知りましたか(複数回答)」に対しては、「掲示・配布物を見て」63名、「主催等のホームページ」12名、「フリーペーパー」9名、「新聞」68名、「ラジオ」16名、「テレビ」3名、「誘われて」29名、「個人のブログ」3名、「ツイッター」5名、「フェイスブックなどSNS」3名、「協賛・協力を依頼されて」3名、「その他」6名という回答が得られた(図16)。主催や協賛先などにより、釧路市内の随所に積極的に掲示された「告知媒体」は、今回も事業の宣伝に大きく貢献していた。また、「新聞」と「ラジオ」の寄与は「第1回」以上に大きかった。効果的なタイミングでのメディア活用が、適当であったことが確認された。さらに、「誘われて」という、いわゆる口コミの効果が大きいことも確認された。次回企画の告知に有効に活用したい。
(n=220)
図16 このシンポジウムを何によって知りましたか(複数回答)
(4) 各講演および実演に関する設問
本事業では幅広い話題提供を目指したことから演者の顔ぶれは多彩であったが、いずれの決着点も、テーマの「食べる」としたかったことから、主催側がタイトルを指定し、プログラム設定のねらいについても演者に詳細に伝えた上で、講演や実演の準備を依頼するという形式をとった。そのため、企画内容の是非を検証するための設問を用意した。
1)近藤誠司氏による講演
「明治まで、シカ肉がごく当たり前に食べられていたことを知っていましたか」について、「知っていた」69名、「初めて知った」96名であった(図17)。
(n=165)
図17 明治まで、シカ肉が ごく当たり前に食べられていたことを知っていましたか
2)横山真弓氏による講演
「北海道外(兵庫県など都府県)も、シカ問題に悩まされていることを知っていましたか」について、「知っていた」103名、「初めて知った」62名であった(図18)。
(n=165)
図18 北海道外(兵庫など都府県)も シカ問題に悩まされていることを知っていましたか
3)上野真由美氏による講演
「ノルウェーのようにシカを'社会のプラス要素'ととらえる国があることを知っていましたか」について、「知っていた」58名、「初めて知った」107名であった(図19)。
(n=165)
図19 ノルウェーのようにシカを'社会のプラス要素'と とらえる国があることを知っていましたか
4)楡金久幸氏による実演
「モモ肉が複数部位からなりたち、各々に適した調理法があることを知っていましたか」について「知っていた」71名、「初めて知った」94名であった(図20)。
(n=165)
図20 モモ肉が複数部位からなりたち、 各々に適した調理法があることを知っていましたか
このように、参加者にとって目新しい話題提供がなされたと確認されたことから、講演ならびに実演の構成は適当であったと判断された。
(5) 参加者の意見等(自由記述)
87名が記述しており、関心の高さが伺われた。表1に全文を記す。
参考文献
釧路短期大学、釧路市(2011)第1回くしろエゾシカシンポジウム報告書.
北海道森林管理局(2010)エゾシカシンポジウム来場者アンケート.
北海道(2006)エゾシカ衛生処理マニュアル.
社団法人エゾシカ協会(2007)毎月第4火曜日はシカの日、エゾシカ肉推奨制度.
北海道(2010)平成22年度道民意識調査.
以上
本事業は、多数の企業・機関からのご協賛により開催されました。主催を代表し、皆さまのご厚意に心より感謝申しあげます。
文責:釧路短期大学生活科学科准教授 岡本匡代
表1 参加者の意見等(原文のまま)
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
80歳代