- 平成25年度フードスペシャリスト協会一般向け啓発事業 実施報告書 —

開催日時 : 平成25年8月3日(土)

開催場所 : 奈良佐保短期大学内 レストラン 鹿野園 15:00~17:00

参加者数 : 30名

講  師 : 奈良佐保短期大学 生活未来科食物栄養コース 特任教授 矢和多 多姫子

【講座概要】

世界遺産登録に申請された日本食をテーマに、「だし」と「うまみ」について取り上げ、日本食の特徴について解説されました。また、栄養学の視点から、長寿世界一になった日本の食が健康的である根拠として、魚の摂取量と平均寿命の関係や脂質摂取量などを国際的に比較して、日本食の優れた点が示されました。

しかし、最近の日本人の食生活が変化し、生活習慣病の危険性が増していることを説明され、今後の健康管理・食育の必要性を考えさせられました。

(配布チラシはこちらから)

 

【講座内容記録】

当日は、暑い中35名の参加がありました。

和食の特徴は、ユネスコ無形文化遺産への提案書にまとめられているとおり、「風土に根ざした多様な食材が新鮮なままで使用されている」、「コメを中心とした栄養バランスに優れた食事構成となっている」、「食事の場において自然の美しさ、季節の移ろいが表現されている」ことです。そして、正月・田植え・収穫祭のような年中行事と密接に関連しており、食事という空間の中で「自然の尊重」という精神を表現している「社会的慣習」として無形文化遺産に申請しています。

自然の食材の持ち味を引き出すのが、 “うまみ”の成分です。和食でうまみと言えば、昆布、かつお節、シイタケなどが出汁(だし)としてよく知られています。 味の基本としては、甘味(sweet)、塩味(salty)、酸味(sour)、苦味(bitter)の4つとされていましたが、日本人によって昆布のグルタミン酸がうまみの成分として発見されて、うまみ(umami)が加わり、5基本味となっています。その後、かつお節のイノシン酸も日本人によって発見され、“うまみ=出汁(だし)”は日本料理の真髄となっています。

日本人の平均寿命は、男性80歳、女性86歳、平均83歳で世界一の長寿国です。その秘訣のひとつとして、米を主食に魚・野菜の副食を食べてきた「一汁三菜」の食生活が考えられます。 国民の1人当たりの食用魚介類供給量と平均寿命には相関があり、魚をよく食べる国の平均寿命は高いという傾向が見られます。日本の魚介類供給量は2007年までは主要国の中で一番多く、長寿との関係がみてとれます。サンマやイワシにはイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含み、中性脂肪を低下させ、血栓の抑制、がんの予防など体によい効果が明らかにされてきています。一方牛乳や肉類の脂肪には飽和脂肪酸を多く含み、コレステロールを上昇させるなど、取りすぎは健康に良くないとされています。日本人の脂肪摂取量は総量で欧米諸国に比べて少なく、健康的な範囲になっています。

しかし、最近の日本人の食生活には、問題も出てきています。日本人の平均寿命は長いですが、日常生活に制限のない健康寿命は、男性70歳、女性は73歳(平成22年)で、男性では約9年、女性では約12年は何らかの健康障害がある期間になります。主な死因をみると、悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患の順ですが、心疾患・脳血管疾患は、過食や運動不足、喫煙など生活習慣から肥満や高血圧、糖尿病などになり、最終的な結果として突然発症するものです。死に至らなくても、治療や介護が必要となり、医療費や介護負担は社会的な問題にもなっています。これが、メタボリックシンドローム予防が重要である理由です。最近の健康栄養調査の結果では50歳以上の男性は半分以上がメタボリックシンドロームまたは予備軍になっていて、肥満者が増加しています。初期には自覚症状がないので、定期的に健診を受けて早めに生活習慣改善に取り組むことで、重症化を予防することが大切です。

食生活の変化が寿命に影響した例として「沖縄クライシス」といわれる事例があります。沖縄は都道府県順位で長寿日本一でしたが、平成17年に26位に落ちたのです。肥満やメタボリックシンドロームの割合も高くなっていました。 この原因は、米軍基地の影響で、内地よりも早く食生活のアメリカ化が始まったためと考えられています。

ヘルシーな日本食ですが、米食は塩分の取りすぎになりやすいという注意点があります。高血圧予防のためには少ないほどよい塩分ですが、日本人の平均摂取量は減少傾向にはあるものの、まだ明らかに取りすぎですので、一層減塩に努める必要があります。

さまざまな健康食品が出回っていますが、あくまでも健康の基本は、主食(ごはんやパン)、副菜(野菜・いも類)、主菜(魚、肉、卵、大豆類)、牛乳、果物をバランスよく食べることです。伝統的な日本食の良さを見直して、健康な食生活を送るよう心がけましょう。

 

【参加者の声】

【試食の感想】

 

※当日は、暑い中30名の参加があり、講演後にも食生活について質疑応用が活発に行われました。

※学内にある奈良県下の「眺望のいいレストラン」に選定されたレストラン「鹿野園」で開催したため、開放感がありゆったりした気持ちで受講していただけたと思います。

 

 最後に、助成いただきました日本フードスペシャリスト協会に深く御礼申し上げます。