食に関する一般向け啓発事業実施報告書

 

 

1.主   催
公益財団法人 すこやか食生活協会
2.共   催
公益社団法人 日本フードスペシャリスト協会
3.事業名
「シニア食育講座」
4.開催日
平成26年11月13日(木)
5.開催場
南青山会館本館  3・4号会議室
(東京都港区南青山5-7-10)
6.参加者人数
41名(年齢層40代~60代)
7.目   的
シニア世代の食生活については、栄養バランスの偏り、低栄養、孤食化など様々な課題が生じている。また、本年には「日本人の食事摂取基準」2015年版が策定・告示される予定となっており、エネルギー摂取の過不足及び栄養素の摂取不足を防ぐことを基本に生活習慣病の予防を目指すとしている。
「食」は社会の縮図であり、これらの課題に対しては、シニア本人と家族、地域社会、食に係わる企業や団体が連携して取り組む必要がある。このため、シニア世代の人々やこれに影響力を持つ関係者を対象とし、食に関する多面的な知識・手法を、様々な分野の専門家がわかりやすく紹介する市民講座を開催し、食に携わる人々はもとより一般市民の啓発をおこなう。

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8.講演要旨

 食品成分と食品そのものの機能性を考える

講師:高橋 陽子 主任研究員

1.健康食品、機能性食品について

① 特定の機能性を利用した食品

1984年、文部省(当時)は、特定研究「食品機能の系統的解析と展開」を、採択実施し、世界に先駆けた国家的プロジェクトで、食品成分と機能性のデータ蓄積がなされた。

その後、1991年に厚生省(当時)が特定保健用食品(トクホ)制度を新設、件数が増加する中で、2015年、消費者庁が食品の新たな機能性表示制度の制定を検討するに至った。

機能性を付与した食品を分類すると、健康食品、特別用途食品、特定保健用食品、保健機能食品、栄養機能食品があり、それぞれに定義が異なることから、重複部分をもっている。

② 新たな機能性表示制度

現在、食品の機能性表示が行えるのは、栄養機能食品と特定保健用食品のみであり、表示対象成分の限定や強化手続の時間的経費的負担に課題があるとされている。

規制改革会議で、一般食品でも機能性表示を可能とすることにより、国民の健康維持に貢献できる弾力的な運用方策を検討したことを受けて、新たな機能性表示制度を推進することとされた。

 

2.食品成分と「農産物・食品」機能性の違い

① 大豆の機能性成分と作用

全粒大豆の成分は、ペプチドやアミノ酸を含むたん白質35%、リノール酸やαリノレン酸、植物ステロール、リン脂質を含む脂質19%、オリゴ糖や食物繊維を含む炭水化物28%、その他にイソフラボン、サポニン、フィチン酸などの灰分が挙げられる。

これまでの疫学的研究と介入研究から、「習慣的大豆食」は、心臓病や肥満を予防していることが報告されている。大豆の脂質代謝改善作用に関し、成分の特定とメカニズムの解明が進んでいる。米国では、1999年、FDAにより大豆たん白質のヘルスクレーム(心臓病予防効果)が認められ、その旨表示されている。

大豆たん白質は本当に効くのか。大豆たん白質やイソフラボンについて、複数の臨床試験で追跡調査がされており、一定の結果を得ている。しかし、複数の疫学研究によると、丸ごとの大豆や伝統的大豆食品は、アジア地域での健康増進効果に寄与することが示されているが、西洋では証明されていない。

西洋における介入試験は、加工度の高い大豆食品や大豆の成分を使用しており、これが健康効果が明らかにならない理由の一つと考えられる。

② 成分でなく「食品」に注目する理由

大豆「成分」だけでなく「大豆食品」の機能性研究が必要なのではないか。大豆食品はどれも同じであるのか。ここで考えるのは、「食品」機能性をどう考えるか、ということである。

研究が進んでいるのは、「機能性成分」の作用であり、実際にヒトが食べる食品の機能は、「成分」の機能から推定される。しかし、食品の機能とは、複数の食品成分が持つ機能の足し算でよいのか。成分間の相互作用があるのではないか。

また、食品成分は、加工されるとさらに複雑となる。大豆を例にとると、豆が、豆乳とされ、それを豆腐に加工、さらに凍り豆腐とされる。この加工の過程で、温度、圧力、水分量等の物理的変化、たん白質の凝集、酵素的分解等化学的変化、ミネラル類、抗酸化剤等の添加物、水溶性成分の流失等成分変化など、が生じており、「加工」も食品機能に影響していると考えられる。

 

3.大豆の機能性研究から

① 凍り豆腐の機能性

豆乳(「ご」)から凝集、緩慢凍結、熟成、解凍、乾燥という製造行程により、たん白質の変成が起こる。凍結変成たん白質は、分子量が比較的大きく、消化抵抗性を示す。

凍り豆腐は、血清脂質濃度低下作用を有していることが明らかとなっており、たん白質成分に由来していると考えられる。そのメカニズムを、マウスを用いて、凍り豆腐や大豆の成分を食べて発現量が変化した遺伝子を測定したところ、脂質代謝への影響が大きく田の代謝系はほとんど影響を受けていなかった。これにより、凍り豆腐は肝臓での脂質合成に関わる遺伝子発現を低下させることが明らかとなった。

凍り豆腐に関する一連の研究により、以下のことが明らかとなっている。凍り豆腐を添加した食餌は、血清の中性脂肪やコレステロール濃度を低下させる。凍り豆腐のたんぱく質源は、イソフラボン成分よりも肝臓の遺伝子発現に強く影響する。凍り豆腐と分離大豆たん白質は、ともに肝臓の脂質合成系を抑制する作用をもち、血清の脂質濃度低下作用に寄与すると考えられる。しかし、肝臓の遺伝子発現全体における凍り豆腐と分離大豆たん白質の作用は必ずしも同一ではない。

② 機能性成分を多く含む大豆の機能性

機能性成分に特徴がある大豆を紹介する。イソフラボンを多く含む品種として、ゆきぴりか、ふくいぶき。βコングリシニンを多く含む品種として、ななほまれ。低アレルゲン特性を持つ品種として、ゆめみのり、なごみまる。

例えば、「ななほまれ」は、普及品種の約1.8倍のβコングリシニンを多く含んでいる。電気泳動のパターンで、11S(グリシニン)を欠失しており、7S(βコングリシニン)を多く含んでいることがわかる。

βコングリシニンは、ラットによる動物試験で、血中中性脂肪濃度の低下作用が、分離大豆たん白質(SPI)と同等以上あると報告されている。

このことから、動物・細胞レベルの試験データから予想される作用メカニズムとして、①肝臓のVLDLレセプターの活性を上昇させる、②肝臓の脂肪酸合成を抑制させ、③脂肪酸参加を活性化させる、④糞中の中性脂肪や脂肪酸排出量を増加させる、⑤アディポネクチン増加、インスリン抵抗性改善を介する、⑥食欲抑制作用を示す、が挙げられる。

脂質代謝改善作用として、1日5gのβコングリシニン入り錠菓を継続摂取した介入試験では、空腹時中性脂肪濃度が150㎎/dl以上のとき血中中性脂肪濃度の変化量に有意差があり、また、試験開始時のBMI値が25から30のとき内臓脂肪量の変化量に有意差があった。

現在、特定保健用食品として、「中性脂肪が気になる方」向けに、βコングリシニン入り錠菓が販売されているが、大豆から精製されたβコングリシニンではなく、普通の大豆食品から摂取できないか。すなわち、効率よく摂れる「普通の大豆食品」を作れないか、として、農研機構では機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクトを実施しているところである。

 

4.まとめ

① 食品の新たな機能性表示制度が始まる。

② 機能性の関与成分を特定し、メカニズムを解明することは、機能性研究の基礎。

③ 機能性成分単独の作用が、食品として摂取したときにも同じように期待できるとは限らない。

④ 同じ農産物を使った食品でも、調理加工等により栄養機能は異なる。

 

 

 食品成分表から見た日本人の食品(食生活)の特徴

講師:渡邊 智子 教授

はじめに

何をどう食べるかを考えるための我が国の基礎データは、「日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」と「日本食品標準成分表(文部科学省)」である。食品成分表は、各国で常用している食品及び料理のエネルギーおよび栄養素量のデータベースとして作成されている。

我が国の成分表である日本食品標準成分表の初版は、1950年に公表されている。最新の成分表(日本食品標準成分表2010)は、7回目の改訂版であり2010年の公表されたものである。各成分表をみると、その時代の日本人が何を食べていたかがわかる。日本食品成分表から日本人の食品および食生活の特徴を考えてみたい。

 

1.食品成分表作成の変遷

初版の成分表は収載成分14、収載食品538である。成分表の改訂は、科学技術(定量法など)の進歩、食品をめぐる諸情勢の変化等、時代の変遷に伴い繰り返されてきた。成分表2010は、収載成分50、収載食品1878であり、初版に比べ収載成分は3.6倍、食品数は3.5倍になっている。各成分表の収載食品の数は、当時の日本人が食べている食品のおおよその種類を示すものである。

なお、最新の日本食品標準成分表は、日本食品標準成分表(日本食品標準成分表2010、日本食品標準成分表準拠アミノ酸成分表2010及び五訂増補日本食品標準成分表脂肪酸成分表)の3セットである。これらの成分表は、各々2015年度に最新版(成分表2015)が公表される予定である。

 

2.日本とアメリカおよびイギリスの成分表の比較

各国の成分表はその国で常用する食品を収載している。したがって各国の成分表をみるとその国の食品(食生活)がわかる。日本、アメリカ、イギリスの成分表を比べると、日本の成分表では、魚介類の収載比率がアメリカやイギリスのそれと比べ高く、一方、肉類の収載比率は両国のそれと比較し少ない。各国の成分表の収載食品をみると、その国で食べられている食品を知ることができる。

 

3.日本食品成分表からみた日本の食品および食生活の特徴

3-①食事区分に対応した食品群にわけて配列:和食は主食、主菜、副菜分けて構成されている。これがよくわかる食品群にわけられている。

3-②和食の主食である飯、うどん、そばなどは素材の味を生かした料理:和食の主食からは脂質を摂取しない。同じ穀類のパン類との相違により理解できる。

3-③いも類、きのこ類、藻類を野菜類と区分:いも類の成分特性は飯に近く、きのこ類は物性食品で唯一ビタミンDを含み、藻類は生でも塩分量が多いなど各食品群の成分特性が理解でき、それぞれを献立に活用できる。  

3-④日本のだし(かつお、こんぶ、しいたけ)を収載:乾物を用いるため少量の材料と簡単な調理操作でおいしく香り良くできる。汁物、煮物がだしにより美味しく仕上がる。

3-⑤大豆加工品(納豆、豆腐、油揚げ、煮豆)を収載:栄養価が高く、成分のばらつきが少なく、煮豆以外は調理の時間は短い。価格が安価で安定しているため便利な主菜である。

3-⑥地域別の味噌を収載:味噌汁は地域の味噌と旬の野菜などを用いて簡単に調理できる副菜である。地域の郷土食の基本とも言える。 

3-⑦味噌、醤油、みりん、酢、酒など醸造食品の収載:味も香りもよく、組み合わせると短時間でおいしい様々な和風ソースができ、料理のバリエーションを増加させることができる。

3-⑧野菜類、魚介類では、生と簡単な料理方法の食品を収載:和食は、魚と野菜(野草)の素材の良さを生かした簡単でおいしい料理である。

3-⑨野菜のゆでは種類により方法が違う:葉物野菜のゆでは、ゆで、湯切り、水冷、手絞りを行う。この操作により硝酸イオンを除去している。

3-⑩煮魚と焼き魚の収載:魚の調理によるカルシウム残存率は焼き魚で120%、煮魚で115%である。焼き魚は小さな骨を気にせずに食べ、煮魚は水に含まれるカルシウムが魚に付着しそれも食べる。調理によりカルシウム摂取量を増やしてきた。

3-⑪塩、醤油、味噌、砂糖等を利用した漬物、佃煮を収載:漬物および佃煮は伝統料理の常備菜である。これらは保存できる料理であり副菜の1品として食卓を豊かにする。

3-⑫外国の食材や料理を時代に応じて収載:新しい料理は、学校給食による家庭への普及などにより日常の料理にもとり入れられている。

3-⑬和菓子に加え洋菓子も収載:和菓子は油をほとんど含まないため、菓子類摂取による脂質の過剰摂取の原因にならないことがわかる。

3-⑭菓子パン類は菓子類に収載:菓子パンは、主食にならに食品であることが分かり食事指導に活用できる。

3-⑮多種類の調味料香辛料の収載:これらを用いることで、諸外国の料理をそのままあるいはアレンジして作ることができる。

3-⑯玉露、煎茶、番茶の浸出液を収載:これらのお茶100mlは、紅茶およびコーヒー100mlに比べ、鉄、カルシウム、葉酸、パントテン酸、ビタミンC、食物繊維を多く含む。飲料としてこれらを選択し、毎日飲めば食生活への寄与も大きいことがわかる。

3-⑰油を使う料理は植物油を用いた料理を収載:日本人は、調味料の油脂として植物油を常用している。

3-⑱醤油や卵焼きを区分して収載:こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、厚焼きたまご、だし巻きたまごなどの味の特徴から、地域による食文化の相違がわかる。

3-⑲ぶどう豆、ふき豆などを食品名として採用:和食の料理名は、伝承されてきた料理名がある。

3-⑳調理による重量変化率表、調理の概要表、食品の調理条件、栄養価計算の方法を明記:実際に食べた栄養量が計算できるように配慮している。

 

4.食品成分表からわかる食品成分の変動要因

成分表の食品を収穫時期、生育環境、品種、部位、調理方法などの相違により比較すると、食品の変動要因が分かる。例えば、鯛は、養殖に比べ天然で脂質量やエネルギー量が低い値である。肉は部位により脂質量が異なる。卵も黄身と白身では脂質量が大きく異なる。ほうれん草は、季節によりビタミンC量が異なる。

また、調理をすると食品の重量や成分量が増減する。例えば、米100gは炊飯により210gの飯になり、ほうれん草100gはゆでると70gになる。献立作成、食品加工、料理などでは、これらを配慮し行われている。

 

5.まとめ

食品成分表から日本の食品および食生活をみると、伝統的な食品を基本に、新たに流通した諸外国の食品を加えた食生活を行っていると考えられる。

また、地域により、基本とする調味料(味噌、醤油)に相違があり、それにより料理(卵焼き、味噌汁)が異なることがわかる。さらに、その地域の食材を用いたその地域の味付けで料理し、それがその地域の食文化を形成していると考えられる。

 

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