平成27年度 食に関する一般向け啓発事業実施報告書

【事業名称】
私たちの奈良をもっと知りたい~奈良の食べもの~
奈良佐保短期大学公開講座2014 夢の丘セミナー レストラン共催セミナー
【開催場所】
学内レストラン「"Rock-ya-On"(鹿野園)」
(奈良市鹿野園町806番地 奈良佐保短期大学内)
【共  催】
朝ごはんをしっかり食べる習慣をつける。毎日欠かさないで食べる習慣、食材を豊富に組み合わせて食事を作り、公益社団法人 日本フードスペシャリスト協会
【目  的】
本学レストランを利用する地域住民を対象に奈良の食材、食文化にふれる機会を設け、
地元食材および食文化の認知と普及を推進することを目的とした。
今年度はNPO法人奈良の食文化研究会等の協力のもと、「大和茶」、「大和肉鶏」、「はくたくうどん」、「吉野鹿肉」、「柿」を取り上げ、奈良の食べものについてシリーズで講演を行った。
【実施内容】
 

 

No1
奈良のお茶
7月4日
(土)
15:15

16:45

講 師:日本茶インストラクター協会奈良県支部

参加者:15名

はじめに、支部長(茶文化研究家)湯浅 薫氏に大和茶の起源、奈良県(大和国)における茶業の展開、お茶の効果についてご講演いただきました。806年に空海(弘法大師)が唐から茶の種を持ち帰り佛隆寺の地に播種したことが最初の栽培であり、嵯峨天皇がお気に召し畿内の国に命じてお茶を植えさせ、毎年献上させようとされたことが「日本後紀」に記されているそうです。その後、お寺で栽培されていたものが、商いに代わっていく過程で、気候だけでなく商いに必要な流通経路(河川)に近い場所に栽培場所が移っていきました。お茶といえば、京都・宇治のイメージが強いですが、茶の湯の創始も奈良の珠光からということで、奈良とお茶は切っても切り離せない強い繋がりがあることを実感しました。

また、生活に活かせるようにと、緑茶の保存方法やお茶の淹れ方のガイドライン、おいしく淹れるためということで様々なことを紹介していただきました。

講演の後は、奈良県北部農林振興事務所の宮本大輔氏に実際にお茶のおいしい淹れ方を教えて頂き、参加者は2人1組で急須とお湯呑みを使って実際にお茶を淹れ飲み比べました。

今回は奈良県月ヶ瀬と柳生の旨味が最も多い一番茶の煎茶をご用意いただきました。 一煎目は60℃くらいで1分半、二煎目は少し高めで1分、三煎目は更に高い温度で30秒。 色も薄く、甘い旨味を感じるお茶から徐々に苦味、渋み、香りなどが加わり一煎毎に違う味に変化していきました。お菓子と共に、参加者各々が自分の好みは何煎目か、また、普段はどんなお茶を飲んでいるかなど話も広がり、お茶を通して楽しい時間を過ごすことができました。入れ終わった茶葉も今回はポン酢をかけて試食しました。鮮やかな緑の茶葉は軟らかく、まるで菜っ葉のような感じでした。  今回は、普通ではなかなか口にすることができない碾茶(抹茶の原料になる葉)の水出し茶を試飲させて頂いたり、農林水産大臣賞一等受賞茶の茶葉を見せて頂いたりと内容盛り沢山の講義となりました。

最後に、湯浅氏より、お茶は色々なお茶がある、飲む場面も様々。食事の時、水分補給時、お茶を楽しむ時など目的に合せてお茶の種類も使い分け、自分流のお茶の淹れ方、飲み方を見つけてほしい。淹れ方も何度か試して個々によって違うおいしいポイントを探し、いつものお茶をもっとおいしく楽しんでくださいと伝えられました。

≪アンケートより参加者の感想≫

  • 茶葉をサラダのように食べることができるなど、初めて知ることも多くあり、 勉強になりました。
  • 初めて茶葉を食べましたが予想以上においしかったです。
  • お茶が身近に感じられた。
  • お茶の飲み方がよく分かりました。
  • 今までに飲んだことがない味(旨味)を味わえました。
  • お茶について知っているようで知らないことだらけでした。おいしいお茶を味わわせていただき、嬉しかったです。「使い分け」「湯の温度」日常生活の中で気をつけます。
  • 日本一の茶葉は美人・イケメンでした。感動です。

 

No2
シンデレラバード『大和肉鶏』
8月2日
(日)
15:15

16:45

講師:増井 義久氏(株式会社エムワイピー 代表取締役社長CEO奈良の食文化研究会 理事)

参加者:28名

大和肉鶏とは奈良県特産の地鶏ですが、そもそも地鶏とは在来種の鶏の血液が 50%以上入っていて、飼育期間が80日以上、自由に運動出来る飼育方法で1㎡当り10羽以下で飼育した鶏と定義づけられています。大和肉鶏は『名古屋種』の雄と『ニューハンプシャ種』の雌を交配した一代雑種の雌と、『シャモ』の雄を掛け合わせて生まれたものです。ブロイラーが60日ほどで出荷されるのに対して、大和肉鶏は120~140日かけて育てられることから、時間をかけて育った肉には旨味と栄養がしっかり蓄えられ、昭和初期の「大和かしわ」の味を再現したと言われており、大和肉鶏は、奈良県唯一の地鶏です。なかでも物集女養鶏場で育てられた大和肉鶏は、TV取材の際に俳優の石田純一氏が、ももタタキを食べた際のおいしさに驚き、「シンデレラバード」という言葉で表現したとのこと。シャモと名古屋コーチンの美味しさを上手く引き出し、脂肪が適度にのったしまった肉質が特長です。その味は甘味があり、しっかりとした味の深みが鶏肉本来の味と評価されています。

死後硬直時の食肉は、筋肉が硬く引っ張り合っている状態です。熟成すると肉自体の持つ酵素の働きによって、筋肉が柔かくなると同時にタンパク質が分解されて旨み成分のアミノ酸が増します。牛肉の場合3℃以下の冷蔵庫に吊るし、2~3週間熟成させると酵素の働きによって、肉は柔かくなり、タンパク質が分解されてアミノ酸分(旨味)が増えます。鶏肉の場合は、0~1℃の冷蔵庫で、約12時間で熟成完了し、24時間位が食べ頃だそうです。鶏肉は、早く熟成するために痛みやすく 厳しい食材管理が要求されるそうです。痛みやすい食材であるため、生で食べるためには、毎朝提携養鶏場まで行き、毎日使う分の鶏をサバいて調理しているそうです。 大和肉鶏の特性を活かしたおいしい食べ方はとして、「大和肉鶏すき焼き」があります。昔から奈良では、すき焼きに鶏肉をもちいていたそうです。そのほか、「炙り焼き」、「竜馬鍋」などでもおいしく食べることができます。お話の後は鉄板焼きで試食をしました。

≪アンケートより参加者の感想≫

  • 奈良の美味しいものを知る機会があり、大変参考になった。いつも新鮮なテーマで楽しい!
  • 久しぶりに唐揚や照焼なく塩で食べられるおいしい鶏肉珍しかった。
  • おいしかった。味もよかった。大宮町の物集女で食事したことがあり今日は来てよかった。
  • 大和肉どりの産地が奈良市の山間部と聞きましたがどこかなと思いました。
  • なかなかおいしいメニューでした。大和においしいものは多く有りますネ!!
  • 奈良の食文化が思ったより広いことにおどろいている。
  • 肉が部位によりかなり色あいがちがっていたので、同時に使うこともないので、あらためておどろきました。
  • 鶏肉は、何も付けなくてもおいしい肉でした。塩を付けてももちろんおいしかったです。
  • もも肉の方がとても味が濃厚で塩とマッチしてとてもおいしかった。
  • 大和肉鶏、聞いた事はあったがなかなか食べる機会がなく試食させて頂いて良かったです。おいしかったです。
  • 大和の“うまいもん”を改めて感じます。大和地鶏のルーツもわかりました。
  • やわらくて、くせがなく食べやすかった。
  • 初めて食べましたが、おいしく頂きました。また機会があれば食べてみたいと思います。

 

No3
春日餺飥
(はくたく)
うどん
9月4日
(金)
15:00

16:30

講師:的場 輝佳氏(奈良女子大学名誉教授 日本料理アカデミー 理事奈良の食文化研究会 理事)

参加者:16名

「春日餺飥(はくたく)うどん」は、春日大社の式年造替を記念して奈良の食文化研究会が再現したものです。再現までの経緯や製作の工夫、うどんの歴史、小麦についてなど、さまざまな興味深いお話を伺いました。

藤原道長の全盛期に小野宮右大臣藤原実資(さねすけ)が日記「小右記」に、一条天皇の春日大社行幸(989年)のおり、一行に餺飥が献上されたと記されており、小麦粉・米粉を山芋でつなぎ、板状に延ばしたものをちぎって作ったようです。饗宴の場で、20人の「餺飥女」(はくたくめ)が両指先に油を少しつけ、これを指でもみ、音曲に合わせて麺にしたという。できた麺はゆでて椀に盛り、小豆のタレをかけて振る舞った。つけ汁が登場するのは鎌倉から室町時代にかけてなので、餺飥は平安時代の祭り食として食べられていたのだろうと考えられます。 うどんの起こりには諸説あり、室町時代の公家の日記『山科家礼記』などの記載により南北朝から室町時代の初めとする説、関東の武将・北条重時の書簡により鎌倉中期以前とする説、鎌倉時代の仁治2年(1241年)に中国から帰国した円爾が製麺の技術を博多に持ち込んだという説などが伝えられています。

今回、平安時代の餺飥を切り麺としてのうどんの元祖とし、鎌倉時代の料理書「厨事類記」を参考にして、NPO法人奈良の食文化研究会が中心となって現代風に再現したのが「春日はくたくうどん」です。小麦粉に米粉や山芋の粉などを混ぜ、幅約1.2センチ、長さ約10~20センチのコシとモチモチ感のある平麺です。ツユは、古代人が食べたであろう「のっぺい汁」に「醤」を香辛料に使ったものでいただきます。

 

No4
吉野の鹿肉
10月5日
(月)
15:00

16:30

講師:瀧川 潔氏(奈良県生活協同組合 連合会会長 奈良の食文化研究会 理事長)

参加者:19名

テーマは『吉野の鹿肉』で、奈良県生活協同組合連合会会長、奈良の食文化研究会理事長の滝川潔氏にご講演いただきました。

世界の森林率を調べてみると日本はフィンランドに次いで2番目、国土面積の約7割を森林が占めています。この森林で、天敵のいない鹿が全国で過剰に繁殖し、材木として価値ある杉やヒノキを傷つけ、被害与えています。 鹿の駆除枠は年間8千頭ですが、実際に駆除できているのは4~5千頭です。 県内の鹿は推定で5万頭にもなり増え続けている状況です。

森林組合員が駆除のために猟銃を所持し、猟友会を中心に鹿を駆除しても肉の流通や処理施設がないため、山中に埋設せざるを得ずなかなか駆除は進んでいません。

鹿は古来、狩りの主要な獲物で「東の野にかぎろひの立つ見えて かえりみすれば月かたぶきぬ」万葉集にも歌われています。

日本でも古くからななじみもある狩猟肉ですが、肉質は赤く、獣臭さがなく高たんぱく、低脂肪、高鉄分のヘルシーな食肉として注目されています。鹿肉は隠語で「もみじ」と言われ、肉食禁止の僧侶なども食しています。他の畜肉に比べてリノレン酸やアラキドン酸、エイコサペンタエン酸など健康に良いとされる脂質を含んでいます。

雌の鹿肉は美味ですが、夏に限っては雄鹿の肉が美味です。
美味しい鹿肉ヘルシー料理の研究・開発・普及を進めるために食の専門家(学識者、シェフ、経験主婦)の皆さんの力をお借りし、行政の協力も得ながら普及ルートの開発を進めていきたいと考えています。

奈良県では平成21年に「野生獣肉に係る衛生管理ガイドライン」が制定され、平成25年に国、県の補助で食肉加工場が完成しました。その後五条市にも施設ができ、今後も行政の指導と地域の支援が必要であると考えています。

鹿肉も部位ごとにカットしたものを流通し、同時に吉野鹿肉料理の試食会を通して料理の普及、猟友会との連携など粘り強く活動をしていく所存です。 講座終了後に「吉野鹿 アジアンカレー」の試食がありました。  今回の講座は食物栄養コース1回生にも「奈良のたべもの」を知ってもらうことを狙いとしてゼミナールの一環として聴講してもらいました。

 

≪アンケートより参加者の感想≫

  • 学校までの往復のバス車中から見るシカを食べることに抵抗を感じたが、講義を聞いて森林が減っていること、駆除しなければならないほど鹿がいるということに驚いた。と同時に、いつも当たり前のように食べている動物の「肉」に改めて感謝の気持ちを持たなければならないと思った。試食のカレーについては、抵抗があったが、やわらかくて癖も感じることなく美味しかった。
  • 鹿肉のよさ、美味しさを全国にもっと広まったらよい。カレーにしてあるので肉そのもののにおいを感じることなく、やわらかく食べやすかった。
  • 牛肉に近い食感で、あっさりしていた。
  • 鹿が原因で森林被害が深刻であることに驚いた。また駆除後に処理しきれずに埋設していることも初めて知った。鹿肉はかみごたえのある中にやわらかさがあり、すぐにほぐれるような舌触りだった。
  • 鹿が年に4~5千頭駆除されていることを知り、衝撃を受けた。今回の鹿の話は知らないことばかりで、奈良県民ではないが多くのことを学んだ。カレーは、鹿肉は柔らかかっつたが、癖があり苦手だった。
  • 鹿肉を食べるのが楽しみだったので、今回の試食はとても良かった。また機会があれば鹿肉を食べたいと思う。
  • 鹿肉はヘルシーでダイエット効果にもいいのかな、と思った。
  • 臭いも気にならず、思っていたよりおいしかった。森林保護の面から、もっと流通等を考えては。通販等。
  • 奈良の鹿も住む所で、神のつかいと言われたり、害獣と言われたり、かわいそうな気がするが自然を守る為には駆除もやむをえないと理解した。流通しないと食べられないし、流通しても高価だと購入しづらいの悪循環になってしまう。試食は初めて食べましたが馬肉・クジラの缶詰に似ているなと思いました。さいぼしがおいしいかもと思いました。

 

No5

よもやま話
11月16日
(月)
15:00

16:30

講師:濵崎 貞弘氏(奈良県農業研究開発センター 加工科 総括研究員)

参加者:17名

11月16日㈪に奈良県農業研究開発センター加工科総括研究員の濵崎貞弘氏を講師にお迎えし、レストラン鹿野園共催の特別講座「柿よもやま話」を開催しました。 濵崎氏は「柿博士」と呼ばれている方で、柿の歴史や伝統文化、民間伝承、衣食住の生活と密着した様々な機能性、新しい研究の取り組みなど、柿にまつわるたくさんのお話を伺うことができました。

奈良県は和歌山県についで収穫量全国2位を誇る柿の一大産地であり、柿は私たちにとってとても身近な果物ですが、意外と知らないことが多くて驚きました。 日本にはなんと約1000種類もの柿があるそうで、濵崎講師が20種の柿を持って来てくださいました。色も形も大きさも様々で、参加者のみなさんも珍しそうにご覧になっていました。

柿にまつわる昔話や伝承が多いのも、私達の生活に密着している植物だからだと言えそうです。 また、多くの柿は種が出来てから渋みがなくなったり減ったりしますが、種に関係なく渋みが消える完全甘柿の「御所柿」は、江戸時代に奈良県御所で初めて出来た日本独自の柿だそうです。 「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほど、柿の栄養価の高さは昔からよく知られており、今でも民間療法では二日酔い防止や高血圧予防になるとされています。しかし、柿の渋みである柿タンニンはポリフェノールの一種でいろんなものと非常に結合しやすいので、いくら体に良いからといっても食べ過ぎるのは良くないそうです。 鉄分と結合すると鉄欠乏性貧血の恐れがありますし、食べ過ぎると腸内でいろんなものとくっついて固まってしまいます。東北のお年寄りは柿が大好きな人が多いので、毎年1~2人、腸閉塞で亡くなる方がいるそうです。朝晩1個ずつぐらいなら問題はないということです。

また、柿は特にタンパク質と結合しやすいため、絹やウールの繊維に色が付くと取れないそうです。濵崎講師がされていたネクタイも、柿渋で染めたものでした。

渋柿の渋の抜き方にもいろいろあることを知ることができました。

昔の貴族は柿紅葉に歌を詠んで遊んでいたという歴史や、美しい柿紅葉を長期保存する方法(保存液も含めて特許とのこと)、その柿紅葉の利用法(柿の葉寿司や飾り葉、フラワーアレンジメント素材など)についても教えていただきました。最後に本学の食物栄養コースの学生が作った「照柿チーズケーキ」を試食していただきました。

最後に、本事業に協賛いただきました公益社団法人日本フードスペシャリスト協会とご参加いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。